「南米チリに建設中の世界最大の宇宙電波望遠鏡「アルマ」」

 今、南米チリに世界最大の「アルマ電波望遠鏡※」が建設されているのをご存じですか。標高5000メートルのチリ北東部のアンデス山中・アタカマ高地に東京の山手線くらいの広大な敷地に、日本と欧米各国などの壮大な国際共同プロジェクトとして、およそ1200億円をかけて進めています。宇宙の謎を調べる人類史上最も高度な技術を集結した地上天文観測施設と言われています。

 私はエンジニアとして昨年10月からチリに駐在しています。日本を出発前にアタカマ高地は世界一星のきれいな所だと写真を見せてもらってはいましたが、実際に見た時は写真以上で驚きました。とにかく凄い、暗黒の宇宙は黒では無く濃紺、天の川も南十字星も驚くほどハッキリ見えます。そして、星が多くて宇宙に飲み込まれてしまうようで、本当に宇宙にいるのではないかと錯覚するくらいです。

 豪華絢爛な満天の星と6000メートル級のアンデスの山々の景色は素晴らしいの一言です。しかし、私達人間にとっては過酷な環境です。山頂は空気の量も平地の半分、紫外線も強烈で、温度もマイナス20℃になることもあります。 チリ駐在の日本人科学者とエンジニアはチリ中部の首都サンチアゴに宿舎があります。私達は1週間交代でほぼ2グループに分かれて仕事をしています。チリ北東部の山頂で1週間仕事をすると他のグループと交代し、2時間かけてアタカマ高地をバスで、2時間アンデス山脈上空を飛行機で首都サンチアゴに帰ります。そして約1週間・高地作業での疲れをとる為の休日をとります。特別の事が無い限りこのパターンを繰り返します。


サンチアゴ市内にて

 アタカマ高地は地球上で最高の天文観測地です。
 雨がほとんど降らない、光害も無く空気が澄んでいる、空気がうすく乾燥している、平らな広い土地であるため天体観測に適している。ここに直径12メートルのパラボラアンテナが54台、7メートルのパラボラアンテナが12台、合計66台を並べて、1つの巨大な電波望遠鏡として観測します。66台のパラボラアンテナは光ファイバーケーブルで結ばれパラボラアンテナの信号は山頂にあるスーパーコンピュータで画像にされます。最大18.5キロメートルまで移動車で広げる事ができます。因みにパラボラアンテナ1台の重量は100トンです。


アタカマ高地の夕陽











 「アルマ電波望遠鏡」が完成すると遠くのものを見る力(解像度)は銀河ならば宇宙のどこにあってもその形を見分けられます。身近な例では、約400キロメートル離れている東京から大阪の1円玉を見分ける事が出来ます。ハワイ島・標高4,200メートルのマウナケア山頂にある光学望遠鏡「すばる」の約10倍の視力です。「アルマ電波望遠鏡」は今年完成予定です。

 宇宙からはたくさんの光(電磁波)が地球上に届いています。しかし、今までの光学望遠鏡では、宇宙からの光の中の一部である、私達の目に見える光(可視光線)しか観測出来ませんでした。光学望遠鏡で見えない光を観測するのが、この「アルマ電波望遠鏡」です。 今までの光学望遠鏡では光輝いている星は見えますが、宇宙の星の生まれる姿とか星のもとになる塵やガスは見ることが出来ませんでした。
 この「アルマ電波望遠鏡」は、銀河や星そして太陽系の様な惑星系がどのようにして作られてきたのかなど、そして一番注目されているのは宇宙にただようアミノ酸まで見ることができます。アミノ酸が宇宙で発見できれば、生命が存在する可能性があります。 さて本当に地球以外に生命は存在するのでしょうか?

 人類が手にする最強の「アルマ電波望遠鏡」で、光学望遠鏡では見えないたくさんの光を調べる事で多くの宇宙の謎に迫る事が期待されています。

 今後「アルマ電波望遠鏡」によるたくさんの宇宙ニュースが発信されるでしょう、ご期待下さい。

※「アルマ電波望遠鏡」(アルマ:ALMA=スペイン語で「たましい」の意味、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)

国立天文台チリ事務所駐在 宮川 広