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1月20日「忙しさの中で思うこと」

 あちこち飛び回っている。今も福山の近くの府中という町の小学校で講 演をして帰りの新幹線で、この原稿を書いている。日帰りである。明日は 福島だ。これは一晩泊まる。日帰りができないわけではないが、あちらで 日本宇宙少年団の分団結成が間近とあって、関係の方々が、ぜひ会いたい と言ってくれたので、一泊していろいろと福島の宇宙教育の実情を知りた いとも思い、泊まることにしたのである。明後日は午前中に丸の内で会議 があるので、早朝に福島を発たなければならなくなった。こうした私の行 動形態は、よほど「貧乏暇なし」に見えるらしく、自分で自分の首を絞め ているように評される向きも多い。貧乏という評は当たっているが、「首 を絞めている」という気分は、一向に本人には無い。全く無い。湧き上が る心に忠実にスケジュールを決断しているからである。

 先日は、ある中学校での講演が予定されていたところ、さる有名企業か ら同じ日の同じ時刻に講演の依頼が来た。親しい友人を介して来たので、 いささか断りづらく、「いやあ、先約があってなあ……」と歯切れ悪く謝 罪をしたら、その友人が「そっちの中学校はいったい謝金をいくらぐらい 出すんだ」と切り込んできた。「よくは知らないけど……」と前置きして、 学校として大体いつも常識的に決められた金額ぐらいのことを口にしたら、 「そんなの断っちまいなよ。こっちはその30倍は出すぞ」と来た。そして 「お前がやっているNPOだって苦しいんだろ。そんなけちけちした講演ば かりしていたら、経営的にも成り立たないじゃないか」と畳み掛けてきた。 頭の痛い問題である。とは言っても、私の心は揺るがない。これは、一人 の人間が幼いころから蓄積してきた生き方の根本に関わる問題なので、話 せば長くなるが、どうにもならない。

 いつか書いたことがあるような気がするが、1972年にフォン・ブラウン が日本に来たときに交わしたQ&Aで、彼が「ナチスのもとで大きなロケッ トを開発しようとした自分のあの頃は、月や火星に行くことを人生最大の 目的にしていたので、きっと悪魔の力を借りてでも、その志を遂げたいと いう一心だった」と言い切った瞬間の衝撃。そしてそのライバルのコロリ ョフが、スターリンの粛清に会ってシベリアの極寒の地に流され、あごの 骨が砕けたり歯がすべて抜け落ちるような強制労働に携わりながら、祖国 の宇宙開発の戦略を練っていたというような話。これは、時代と環境の制 約の下で生きていかざるをえない人間の闘志の中で、最も大事にすべき 「人間の尊厳」に属するものであるような気がする。

 私がそうした精神を学んだのは小学校の時である。進駐軍のオーストラ リア兵がジープから投げ出したチョコレートを泥だらけの路傍から拾い上 げて食べていた。滅多に怒ったことのない父が、今まで見たこともないよ うな怖い顔をして、私の手からチョコレートを叩き落とした。「なぜ?」 といぶかる私に「それは日本人の矜持である」と言い捨てた。父や母から はいろんなことを教わった。あたかもその総括のように没入したのが、小 学校5年生のときに読んだ『愛の学校・クオレ』だった。一つの学校の一 つの教室、ある一人の少年の家庭で生起する小さな事件の連続が、あたか も自分の一生を左右する重大事件であるかのように、何度も何度も涙に暮 れながら読み続けた。そして大人になっても、あのときの心のままに生き ている自分を発見して愕然とする。

 『クオレ』の世界も、フォン・ブラウンの決意も、コロリョフの野心も、 人間が時代と環境の制約のもとで、その時代に正面から向き合う気合を表 現している。どんなに知識を詰め込んでも、どんなにお金を儲けても、こ の時代に向き合う勇気がなければ、本当にその時代に生きた意味がない。 宇宙時代を迎えて、人類は、時間的空間的に大きなひろがりのある世界を 見るようになった。情報革命の中で、私たちはいながらにして時空を超え た情報を手に入れることが可能になっている。しかしその状況に甘んじて、 時代と環境を見る「治具」のくびきから、解放されるための努力を怠って はならないだろう。

 時代の最も大切と思われる課題に挑戦することを、ごまかさないで自己 の生きる目標にしよう──新幹線に揺られながら、こんなことを考えてい る。

YM

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