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YMコラム
4月14日「「初心」ということについて」

 世阿弥の「初心忘るべからず」という言葉は、彼の『風姿花伝』に出て くる。これは、その意味するところが誤解されている場合が多い。よく聞 くのは、「やり始めの純粋な気持ちとか大きな志を忘れないようにしろと いう教えだ」という解釈である。しかしこれは違う。本来世阿弥の言いた かったのは、「最初の頃の未熟な心(=初心)を忘れず、不断に内省の目 を向けなさい」ということである。

 この「心」に注目したのは、もちろん世阿弥が最初ではない。この列島 の人々の古層には、そのような傾向は根深くあったと思われる。現在それ を慎重に掘り起こそうと試みているのだが、たとえば平安時代に、空海の 『十住心論』では、人間の「心」がその未熟な状態から悟りの状態まで10 段階を経て浄化されていくと論じられている。

 ただし空海の場合は、私の読みが浅薄かもしれないが、十住「心」と言 っても、さまざまな仏教経典の優劣を論じているもののように見える。む しろ鎌倉時代に入ってからの仏教家たち(というよりも思想家たち)の方 が、念仏とか座禅などの修行を通して、「無私」という心境に達するため の「心」の成熟を求めていったように思われる。

 宗教心の希薄な私としては、畏れながら、彼らが強烈に求めたに違いな い「成仏」という気持ちがどうしても理解できないのではあるが、その私 としての限界の範囲内で、明恵が『摧邪輪』にいう「菩提心」、親鸞の 「自然法爾」、道元の「身心脱落」などが、自己の「心」を清浄にしてい った最高の到達段階なのだろうという推測はできる。

 わが家は曹洞宗の家系と言われて、道元の『正法眼蔵』などは親しもう と努力してきた(そして何度も難解ではねつけられてきた)が、その「発 菩提心」の章にある記述に感動を覚えたことは一度ならずある。森羅万象 あらゆるものが発心の動機になるということ、日常の生活の中にあるあら ゆるものが人間の心の成熟につながるという「感じ方」に共鳴してきた。

 世阿弥の「初心忘るべからず」は、これらの先人の思想にその芸道にお ける凄まじい実践を通じて磨きをかけ、その日本人の古層に生き続けた 「心」についての感じ方を、一つの華やかなクライマックスにまで導いた ものに見える。「初心」とは、未熟な心である。ところが、この『風姿花 伝』の初心の論議は、世阿弥自身の成熟を経て、晩年に著された『花鏡』 で、新たな展開を見ている。そこには以下の記述がある。

 是非の初心忘るべからず
 時々の初心忘るべからず
 老後の初心忘るべからず

 第一に、初期の未熟(非)を内省しながら、後の成熟(是)へと進んで いくべしということ。第二に、未熟な状態から成熟の状態まで、それぞれ の時期にふさわしい「初心」があるのだということ。第三に、老後になっ たらますます慢心や油断をしないよう自らを戒めるべしということ。

 こうした世阿弥が追求した芸道における「無私」ということは、(私に とってはこれからの課題だが)後に武士道においても、宮本武蔵の『五輪 書』や幕末から明治にかけての山岡鉄舟などの「無心」という境地に引き 継がれていったのではないかと推察される。そこでは、「心の成熟」とい う観念が、自然や他者と共感しつづける、響き合うような「無心」を求め ているように見える。

 それはおそらく心が空っぽになるから「無心」なのではなく、自然や他 者と常に共鳴する状態に置かれている境地を言っているようで、そこに己 の未熟な「初心」を自覚しつづけることとの深いつながりが見えるのであ る。

 日々のさまざまな人間関係、複雑に生起する出来事の中で、いつもいつ も悩みつづける自分を発見するにつけ、その未熟を見つめ続けるのはつら いことであるが、日本の歴史に現れた素晴らしい先人の境地を手本にして、 人間として学び続ける姿勢を失わないようにしたいと自戒の気持ちを高め ている。人生を生きる境地には果てがない。

 ところが、最近未熟なままでちょっと考えていることがある。日本人の その「心」との格闘は、それをとりまく広い世界との関連でみた場合、大 きな長所であると同時に一つの限界にもなっているのではないかというこ とである。日本の未来と大切なつながりがあるのではないかと私が考える そのことについては、次週に語りたい。

(YM)

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