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YMコラム
6月日23「イカロスの新たな冒険」
 日本の太陽系探査の当面の主役は「イカロス」に移っているが、その主 戦場は変わらない。神奈川県相模原市の宇宙科学研究所キャンパスである。 B棟と呼ばれる建物の3階に、世界一狭い「深宇宙管制センター」がある。 ここについ最近まで「はやぶさ」「あかつき」「イカロス」「ジオテイル」 4機の探査機のチームが入り乱れて仕事をしていた。

 6月13日の深夜、オーストラリアに小さなカプセルがパラシュート降下に 成功した日、「はやぶさ」本体の追跡チームは突然することがなくなった。 7年間にわたる絶え間なく襲ってくる激闘に耐え抜いた若い技術者たちに、 高い達成感と茫然自失の虚脱感が混在している。

 「はやぶさ」チームにつづいてこの部屋を支配するピーンと張りつめた 空気を生んでいるのは、「イカロス」のチームである。「はやぶさ」より もさらに若いこのチームは、世界で初めての挑戦という懸命の日々を送っ ている。興奮と感動の震源地だったこのフロアが、再び日本の惑星探査の 野心的な回り舞台となっている。

 回り舞台にこのたび登場した「イカロス」の配役たちは、森治プロジェ クトマネジャーに率いられて、着実に世界の太陽系探査に新しい技術の風 を起こしつつある。太陽系空間に満ち満ちている太陽の光のエネルギーを いただいて宇宙船を操縦する「ソーラーセイル」(太陽光ヨット)が、い ま人類の獲得技術の一つとしてリストに載ったのである。

 まずは「イカロス」について、これまでの概略を振り返っておこう。

 5月21日。6時58分22秒、「イカロス」を搭載したH-IIAロケット17号機が、 種子島宇宙センターから打ち上げられた。 「イカロス」の分離は、ロケッ ト側の信号で確認された。

 6月8日から10日にかけて、セイルの展開作業を実施。地球から「イカロス」 までは、コマンドを送ってから、返事が来るまで50秒近くかかる距離にいる ので、運用室では緊張した状態がしばらく続いた。まず、最初にきたスピン レートや「イカロス」の姿勢データから正常に展開していることが分かり、 続いて、モニタカメラで撮像した画像からもセイルが展開していることが確 認できた。6月10日にはセイルの綺麗な「展張状態」の画像を取得、展開成 功を確認した。

 http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_channel/images/005_001.jpg

 合わせて、搭載した薄膜太陽電池による発電も行われていることを確認。 これで当初設定していた「ミニマムサクセス」を達成した。世界初のソーラ ー電力セイル展開と発電を実現したことになった。これで、2010年6月10日は、 世界で初めて宇宙でセイルが開いた記念日となった。

 http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_channel/bn006.html

 6月15日。「イカロス」は、翌日には地球から1000万kmの距離に達するとこ ろまで来ていた。スピンレートは2.5 rpm(1分間に2.5回のスピン)。打ち上 げてから間もなく4週間になる。太陽と地球との平均距離を1天文単位(AU: Astronomical Unit)と言い、約1億5000万kmである。太陽の光を浴びながら、 すでに宇宙ヨットの帆の展開に成功した「イカロス」は、この日太陽距離が 1.06AUに達した。ということは、現在は太陽から遠ざかっている最中なので ある。このように「イカロス」は、いったん地球軌道の外に出た後、方向を 転じて太陽系内部に向かって加速を始める軌道計画になっている。

 6月16日。 「イカロス」搭載の分離カメラから、展開後のセイル全景の撮 影に成功した。「イカロス」は二つのカメラを積んでいる。いずれも直径6 cm、高さ6 cmの円柱形をしており、ばね仕掛けで「イカロス」本体から放出 され、一度放出されると二度と戻ってはこない。DCAM1、DCAM2と名づけられ ているが、ちょっと呼びにくいので、ここでは「イチカメ」「ニカメ」と呼 ぶことにする。今日の撮影は「ニカメ」によるものだ。人類史上初めて宇宙 に帆をひろげた「イカロス」。「ニカメ」によって、誰にも邪魔されること なく翼いっぱいに太陽の光をぜいたくに浴びている姿が、暗黒の宇宙をバッ クに浮かび上がった。

 6月17日。昨日から始まっているスピンダウン。今日は、2.5 rpmから1.7 rpmまで落とした。最終的な狙いは1 rpm前後。大海原を風に吹かれて進んで いくヨットと同じように、「イカロス」も太陽とセイルの間の角度を調整す ることによって、太陽光の圧力のかかり方を制御していく。しかし、独楽 (こま)が猛スピードで回っているとその姿勢を変えにくいのと同じ原理で、 セイルのスピンが速すぎると、姿勢の変更がしづらい。「イカロス」の場合 は、いずれ1 rpm付近までスピンレートを落とすことによって操舵性をよく しようというのである。

 「イカロス」のセイルは、ひろげた「風呂敷」の対角線の長さが20 mもあ り、その上その厚さ(薄さ)はわずか0.0075ミリ。こんなにフニャフニャの ものがくっついているものの姿勢制御はとても難しい。慎重の上にも慎重を 重ね、セイルの挙動をじっくりと観察しながらスピンレート制御を行い、ス ピンダウンの全行程のおよそ半分が完了した。何しろ「イカロス」のセイル を展開した状態で姿勢制御するのは、今日が初めてだった。本格的なソーラ ーセイルを実現するための研究開発の要素はたくさんある。本日は、まずま ずよくやった!

 6月18日。本日も,昨日に引き続きスピンダウン。最終的なスピンレート は1.1 rpm。打ち上げて以来最も低いスピンレートとなった。

 6月19日。「イチカメ」分離のリハーサル。首尾よく完了。明日分離の予定。

 6月20日。「イチカメ」を分離し、1 rpm程度で回転しているセイルの様子 を撮像。「ニカメ」の半分くらいの速度で太陽方向に向かって分離・放出す るように設計されているので,「ニカメ」よりも近いところからの撮像がで きた。1枚目の画像には分離されたカメラの影をはっきりと確認することがで きた。この写真が想定通りの良い写真だったので、運用室でもちょっとした 歓声が上がった。これでセイルの様子を詳しく観察できる。ただし、通信レ ートが遅くなってきているので、全ての画像をダウンリンクするのに数日か かる見込みである。きちんとした報告は、しばらくお待ちあれ。

 http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_channel/bn006.html

 6月21日。昨日スピンレートを少し上げた。セイルはスピンによって生じる 遠心力でその形状を維持しており、スピンレートを上げれば上げるほど、ピ ンと張ることができる。もちろん「イカロス」は、太陽光の圧力の影響で常 に姿勢が変化しているのだが、スピンレートを変えると、スピン軸の変化の 様子も変わってくる。光圧をチェックしつつ運用に最適なスピンレートを選 択するところに、面白さも難しさもある。

 今日はオプション機器のひとつであるGAP(ガンマ線観測器)の立ち上げを 行った。担当の金沢大学の人々も運用室に来て、賑やかな運用になった。GAP はあと数日動作確認を行った後、定常観測モードに移行する予定。

 6月22日。昨日のGAPに引き続き、オプション機器のALDN(ダストカウンター) の立ち上げ。GAPの面々にALDNのメンバーも加わり運用室は大盛況。

 これからは、光の圧力を用いた加速と軌道制御を世界で初めて実証してい く。100年前に、ロシアのツィオルコフスキーやツァンダーが構想した夢のソ ーラーセイルの技術が、いよいよ日本の若者たちの力で実現に近づく。しば らくは目が離せそうもない。そして世界中がその動向を見つめている。

YM

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