入会案内
コンテンツ
KU-MAについて
リンク
会員向け
KU-MAの
おすすめ

世界でいちばん素敵な
宇宙の教室


超巨大ブラックホールに迫る
「はるか」が作った3万kmの瞳


自然の謎と
科学のロマン(上)

Newton編集長の実験と工作動くもの浮くものの不思議

Newton編集長の実験と工作─光や電気の不思議─


小惑星探査機「はやぶさ2」の大挑戦 太陽系と生命の起源を探る壮大なミッション


新しい宇宙のひみつQ&A


宇宙人に会いたい!: 天文学者が探る地球外生命のなぞ


宇宙の始まりはどこまで見えたか? 137億年、宇宙の旅

他にもおすすめがあります

YMコラム
12月16日「金星探査機「あかつき」の状況」

 さる月曜日に「視点論点」で「あかつき」のことを話しました。私はテ レビカメラに向かうとなぜかゆっくり話し始める癖があり、例によって予 定したことを全部は話せなかったので、もう少し詳しい形で再録します。

 さる6月13日に7年60億kmの旅を終えて、オーストラリアに帰還した「は やぶさ」(図1)は、その後回収されたカプセルから約1500個の小惑星イ トカワ起源の微粒子が見つかったことで、多くの人々から共感と感動と賞 賛をいただきました。ただし、カプセルの容器はもう一つあります。実は- こちらの方が最初のタッチダウンの時に採取されたサンプルなので、むし ろこれからもっとたくさんのイトカワからの粒子が発見されるのではない かと、さらに期待が高まっています。というのは、第一回のタッチダウン は、ご存知のようにイトカワ表面でバウンドしたわけですから、ちょっと 変則的な着地をしているわけなんですね。

   そして5月に打ち上げられた探査機「あかつき」(図2)が、さる12月7 日に金星に接近しました。私は、この金星探査機「あかつき」に「はやぶ さ」の勢いを継承して欲しいと期待していました。この二つにチームとし てはそれほど必然的・直接のつながりはないし、むしろお互いにライバル のような関係なのかもしれませんが、日本の太陽系探査あるいはもっと視 座を高めて日本の人々とのつながりという点から見ると、これはもう明確 に深い絆があります。つまり、「あかつき」の活躍によって、「はやぶさ」 が作り上げた日本の人々の希望と強い矜持を、さらに広げ固めることがで きればなあ、というのが私の希望でした。このくらい混迷する世相にあっ て、日本の宇宙活動に時代をリードする勢いを求めていたのです。しかし 事はそうスムーズには運びませんでした。

 地球から太陽中心軌道をはるばる航行してきた「あかつき」は、金星の 影響圏(重力圏と思ってください)に進入し、12月7日、金星に接近しま した。ここで何もしなければ、金星を通り過ぎた後に、再び金星の影響圏 を脱出して太陽中心軌道に入っていくのですが、それでは何のためにここ まで来たか分かりません。計画(図3)では、金星に一番近づいたあたり で、軌道制御エンジンを噴射してブレーキをかけ、噴射が成功すれば金星 を回る細長い軌道に投入される予定でした。その際、日本時間の朝8時49 分に逆噴射を始めてすぐに「あかつき」は地球からは見えなくなり、その 地球からみえない間に12分間の逆噴射を終えた「あかつき」が、やがて金 星の陰から姿を現し、「あかつき」からの電波を地上局から捕捉する手は ずになっていました。ところが「あかつき」との交信は、予定の時刻にな っても復活しなかったのです。

 ここは「あかつき」の追跡班が頑張りを見せました。「あかつき」が金 星の向こうに消えてからほぼ1時間40分後の午前10時29分、地上局が「あ かつき」の弱々しい電波をとらえました。「あかつき」のローゲインアン テナ、つまり、守備範囲は広いが性能の劣るアンテナが、地上局との通信 を回復したのです。その後いろいろあって、「あかつき」の軌道がはっき りと決定され、探査機が安定に三軸制御された状態に移り、いちばん性能 の高いハイゲインアンテナと地上局が交信できるようになったのは、翌12 月8日の朝8時25分のことでした(図4)

 ハイゲインアンテナは大量のデータを効率よく地球に送ってくれます。 膨大なデータを検討するうちに、いろいろなことが分かってきました。逆 噴射を12分つづけるはずの制御エンジンは、わずか2分半ほど噴いたとこ ろで噴射が中断し、機体の加速度がいったん急激に低下し、「あかつき」 の姿勢が突然大きく(42度も)変化していました(図5のp2)。ガスジ ェットによる姿勢制御装置が懸命に回復に努めましたが姿勢は安定せず、 「あかつき」はすぐにリアクションホイールという一種の独楽を使った姿 勢維持のモードに移っていました。そして逆噴射開始から6分15秒、「あ かつき」は太陽電池パネルを大きく太陽に向けて電力を確保するセーフホ ールドモードに移行しました。これらはすべて地球からは見えなかった間 に、賢い「あかつき」が自動的にやったことです。

 金星近くでのブレーキが決定的に足りなかったので、「あかつき」は金 星の影響圏の外へ再び脱け出て、太陽を中心とする軌道を再び回り始めま した。金星を回る軌道には投入できなかったのです。なぜこのような異状 が起きたのでしょうか。現在「あかつき」チームは、懸命にその原因を探 っています。

 外的な原因として考えられるのは、何かが衝突したということですね。 金星のあたりに何かぶつかるようなものが考えられるでしょうか。たとえ ば小惑星とか、むかし打ち上げられて金星周回軌道に乗っていて寿命の尽 きたアメリカやロシアの探査機とかがあったのでしょうか。そうだ、「あ かつき」と一緒に打ち上げて、太陽の光を跳ね返しながら金星に向かって 航行をつづけていた「イカロス」の大きな帆がまきついたのではないか、 とか。しかしイカロスはこの日、「あかつき」とは逆の方向から金星に8 万kmまで最接近し、アッという間に100万kmまで離れていました(図6)。 イカロスがまきついた可能性はゼロです。こうした一見奇想天外に見える ものも含め、さまざまな可能性をすべて当たってみなくてはなりません。

 そうした外的な原因でなければ、逆噴射のオペレーションそのものの主 役である軌道制御エンジンが何らかの異常を起こしたのかも知れません。 これは太陽に接近するため温度条件がこれまでよりも厳しいことを考慮し て、新たに開発されたエンジンで、従来使用していたニオブ系耐熱合金を、 より高性能な窒化珪素セラミックスに変更することで、性能の向上を図っ たものです。この「セラミックスラスター」(図7)は、開発段階で十分 にテストを行い、打上げ後も6月には13秒間噴かして軌道制御に成功して います。

 それが宇宙で初めて12分間にわたる長秒時の燃焼に挑戦したのですが、 わずか約2分半だけ燃焼して急に何らかの原因で燃焼が中断してしまった わけです。データを見ると、噴射開始直後から、燃料タンクの中の圧力が 予想に反して徐々に低下しています。機体の加速度も徐々に減少している ことも気になります(図5のp4〜5)。こうした現象を眺めると、噴射開 始後2分半のところで何か衝突のような外部的な事故が起きたための異常 というよりは、やはり制御エンジンの何らかの異常と見るべきではないか と思いたくなります。

 しかしここは、ともかく予断をせず、先入見を持たないで、データに現 れている事実を重視しながら、「あかつき」チームが検討をつづけている ところです。噴射開始直後からのタンク圧と加速度の低下という現象と、 2分半後の突然の姿勢変化・燃焼中断との関係などを統一的に説明できる 考え方を必死で求めているところです。まあ結局は軌道上で、セラミック スラスターをいくつかのモードを設定して実際に噴かして様子を見ながら 原因を探ることに落ち着くものと、私は予想しています。

 現在「あかつき」が乗っている軌道をたどると、6年後の2016年12月か ら2017年1月にかけて金星に接近します(正確なデータがないので、概念 図として描けば図8)。それまでに「あかつき」が出会う天体は全くあり ません。地球の公転軌道よりもはるかに内側を回っているので、地球に出 会ってスウィングバイを実行する手立てもありません。「なぜ金星には、 わがお月さまのような衛星がないんだろう」などと、今さらながら無いも のねだりみたいなことを考えたりもしました。とにかくあと6年の間待っ て、2016年末の金星接近のチャンスに、再び金星周回軌道への投入に挑み たいと、チームは望みを抱いて前向きの努力を開始しています。

 「あかつき」チームは、この金星接近の機会をとらえて、搭載したカメ ラのテストをしてみました。この機会を逃すと、しばらくテストのチャン スは訪れないでしょうから。どたばたにあって、冷静な対応ですね。金星 の美しい画像が、紫外線と赤外線によってくっきりと捉えられました(図9)。 「こんなにカメラは正常なのに!」と、チームは歯ぎしりして悔しがって います。その他電源系、通信系、データ処理系、熱制御系などのサブシス テムに、異常な現象は何一つ検出されませんでした。したがって現在姿勢 系と推進系を中心として検討を行っているところです。

 実は、あの地球に劇的な帰還をした「はやぶさ」の快挙は、ミッション が認められて以後の15年間、平均すると国民のみなさんの税金から1年に 10円ずついただくことによって成し遂げたものでした。先日ある小学校で そのことを話しましたら、小学生の全員が、1年に10円なら毎年あげても いいと手を挙げてくれました。「あかつき」も、6年後にもし無事に金星 周回軌道に乗って予定の2年間にわたって観測ができたなら、「はやぶさ」 とほぼ同じくらいの国民の負担になる勘定になります。1年に10円くらい ですね。

 科学者や技術者は、直接は、国民を元気にするという目的を持ってその 仕事に取り組んでいるわけではありませんが、「はやぶさ」のように、世 界的な知的・技術的貢献をすることによって、私たちのこの国がこの世界 に存在していることの意味を確認できれば、これに過ぎる喜びはありませ ん。それは無難なことばかりをやっていて得られるものではなく、高い目 標を掲げながら、難しい課題に挑むことによってこそ達成することのでき るものだと信じています。「はやぶさ」でいただいたみなさんの関心と支 援の声と忍耐を、このたび新たに直面している「あかつき」の厳しい試練 に対しても注いでいただくよう、またほぼフル・サクセスの快挙を成し遂 げつつある「イカロス」にも寄せていただくよう、心からお願いいたしま す。それは、必ず日本の未来を築く大きな力になることをお約束します。

(YM)

TOPKU-MAについて入会案内リンク会員向け

このサイトの内容の無断転載・複製を禁止します