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3月2日「宇宙探査の将来」

 転んで二足歩行が困難になっています。そのリハビリのわずかな期間を 活用して、少し日ごろの考えをまとめてみました。

1 宇宙探査と宇宙活動

 宇宙についての活動は一般的に「宇宙活動」と総称されます。曖昧な言 葉として「宇宙開発」という語もありますが、人間の本源的な宇宙への姿 勢を反映しているのは「宇宙探査」という表現でしょう。冒険心の発現と しての人類の宇宙進出、好奇心の追求としての宇宙科学、そして匠の心が これらを実現するための手段(宇宙技術)を提供します。しかし宇宙活動 が人間の生活と密接なつながりを持つようになって以来、この3つだけで は、あるいは換言すれば「宇宙探査」だけでは、すべての宇宙活動の範疇 をカバーできなくなりました。こうして、「いのち」あるいはもっと広く 人々の生活を含んだ“Life”の問題が「宇宙活動」の前線に登場するよう になったのです。人類の歴史と現在の社会を見渡した時、「宇宙からの視 座を持たなければ、その抱える問題を私たちは乗り越えることができない」 ━━私はそう思っています。

2 時代規定に関わる問題

 現代の諸問題が、宇宙を視座にしなければ解決できないとなると、現代 はどういう時代かという時代規定の問題が非常に大切になってきますね。

 時代規定に関しては、第一に、核兵器と地球環境問題の登場によって、 人類が青年期から壮年期に入ったという歴史学者の人たちのとらえ方が、 現代の特徴をよくとらえていると思います。人類が自ら作り上げてきた知 の遺産のお陰で、時間的には、137億年の宇宙の歴史を1年に縮めたCosmos Calendar(図1)に象徴的に示されるように、私たち自身が宇宙進化の産 物であるという認識を得ています。私たちが、宇宙の始まりから存在して いた物質の「奇跡的に」進化した姿であることを、しっかりとした科学の 基盤の上で実感できるのは、私たちが現代に生きているからです。同時に、 空間的な認識からは、私たちが1000億もの銀河のうちの一つである銀河系 の中にあること、その10万光年というひろがりのごく田舎の方にいること もよく知っています。私たちは宇宙の田舎者なのである、ことを自覚する ことは大切なことだと思いますね。これは卑下でも何でもない事実認識で す。


(図1)コスモスカレンダー

 この状況で、手ごわい神の問題、宗教の問題などもいろいろと浮かび上 がって来るのですが、何よりもしっかりとした位置づけをしなければなら ないのが、生命あるいは「いのち」です。「いのち」が137億年の宇宙進 化の到達点として存在していること、そのルーツをより鮮明に描くことに こそ、宇宙科学の動機づけがあることを、まずは掴んでおきたいと思いま す。

 その「いのち」が、核兵器と地球環境によって脅かされていることの認 識はひろがっていますが、それへの抜本的な対処を発見するには至ってい ません。加えて、あの6500万年前の恐竜絶滅からの蓋然的教訓を活かしき ることにおいても、私たちは遅れていると言わざるをえないでしょう。歴 史を踏まえた近未来の課題として「衝突と絶滅」の問題は重要ですね。

 関連した話題としては、急速に発見数を増している太陽系外惑星という ものもあります。もちろんこれは、地球外生命・地球外文明との関わりに おいて、人類という存在の意味づけという課題ですから、大いに議論すべ きテーマであると考えています。

 時代規定の第二に挙げるべきは、現代が20世紀の「経済力・軍事力の時 代」から21世紀の「共感の時代」に入りつつあるということです。これを 日本の状況から見ると、20世紀に作り上げた「世界第二の経済大国」とい う地位はすでに滑落し、2050年にはGDPが世界の第8位に陥落するとの予測 が出されています。加えて少子高齢化。ここに至って、世界の時代と日本 の状況とをどう結合して対処するかが、これからの日本の帰趨を決める大 切な視点となるでしょう。

 そこにあの小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰還という劇的な事件が起 きました。20世紀末の、まだバブルの余韻が一部で元気となって残ってい た時代に認可され、若い人々に担われた「はやぶさ」が七難八苦の末に帰 還し、人々の圧倒的な共感を獲得しました。それは、全国をつぶさに回っ た人間でなければ到底理解できないような現象です。そこからこれからの 日本の進む道へのヒントを得ようとするのは、あながち間違いではないの ではないかと考えています。

 「はやぶさ」の勝因として、「適度な貧乏」という言葉が、世の中を歩 いています。この言葉の中に含まれている経済力・戦力・人材などの要素 を勘案して、どのように時代を超えていくかのカギが、「はやぶさ」に小 さな縮図として示されていると思うのです。それは、「適度な貧乏」にあ って矜持をもって設定した高い課題意識です。そしてそれを率いて行く揺 るぎないリーダー、そのミッションを高いレベルで共有し、社会との一体 感において実践するチーム、……といった諸条件がそれを支えました。こ うした「はやぶさ」のストーリーが、日本のあるいは社会の閉塞感に起因 する共感を得たのですし、また「はやぶさ」の挑戦の姿勢がsecurity論議 の先行する社会に起因する共感を誘発したのだと思います。

 時代規定の第三としては、日本史の新しい局面があるでしょう。それは、 受容から発信へという時代の到来と、Globalizationという問題です。い にしえより、流入して来る外国の技術を含めた文化を受容し、この国の実 情に合わせて洗練して行くことにおいて天才的な力を発揮してきた日本。 深い意味でそれが「和」ということなのでしょうが、国の名を「倭→和→ 大和」と呼び変えてきた人々の何と天才的なこと。

 それはともかくとして、日本史上初めて世界的な「金持ち」になって、 それを世界のために貢献する「金」として活かしきれなかった未成熟さは、 すでに取り返しのつかないことになっています。あの時代、「適度な貧乏」 を人工的に作る工夫のできなかった教訓を、21世紀には、本当の「適度な 貧乏」の中で「世界の共感を得る国」を築くために活かさなければなりませ ん。

 その未熟な時代にGlobalizationの罠の真っただ中に捕えられた私たち は、もっとglobalな宇宙の視座を確立することが必須になるでしょう。宇 宙活動と日本文化の協働を求める理由がそこにあります。その目標は、宇 宙活動を世界貢献という立場から議論することに尽きるでしょう。

 一つの具体的な課題を例として挙げておきましょう。現在「国際宇宙ス テーション」が建設されています。16カ国が協力して1998年以来作り上げ ており、完成間近にあり、これの完成を待ってスペースシャトルが引退し ます。高額の費用をかけてこれを建設する意味がどこにあるのか、正直私 は疑問に思っていました。しかしアメリカのイニシャティヴで開始された この計画に、日本は乗り遅れてはまずいとばかり参画しました。いいこと もあったでしょうが、流行の「費用対効果」という点では、いまだに大き な問題だと私は感じています。ただし現在の段階になると、もう「どうせ 建設したのだから、これを16カ国だけでなく全世界の人々のために役立て るステーションにできないものか」という問題に置き換えるしか、意味を 見出す術はないと思っています。それは、成功すれば、宇宙活動を真に現 代の課題に応えるための強力な礎にする「逆転の発想」を生み出すことが できるのではないでしょうか。その解答を追い求めているところです。

 たとえばここに各国の宇宙活動への基本的な意味づけの図があります (図2)。西田篤弘博士の図にわずかばかり私の見解を付け加えたもので すが、この図を単に二次元の競争・協力という視点から見るのでなく、よ り高い視座から眺め、「適度な貧乏」という条件を加味した場合、日本の 戦略としてはどのようなものが浮かび上がって来るでしょうか?議論を待 ちたいと思います。


(図2)各国の宇宙戦略

 私見としては、これからの宇宙探査の重点は、宇宙科学と有人宇宙活動 におくべきであると考えています。貧乏ではありましたが、宇宙の科学は 実績を積んできました。有人の方は、手ごわい予算の推移の下で、じわじ わと実績を積み上げてきた宇宙開発事業団の人々のしたたかさが、ようや く有人に向けてexplicitな動きに直結できる情勢を作り出しています。す でにハレー彗星探査、Mシリーズ・Hシリーズの開発、国際宇宙ステーショ ンへの参入などをめぐって、日本vs.外国、国vs.企業などの幾分の経験も 積み、ようやく世界貢献を本格的にすることのできる機運も高まりつつあ ります。決定的に準備不足なのは「人」です。

3 人づくりの課題における宇宙

 長期的な国づくりの観点を欠き、そのために長い視野で人づくりをやっ てこなかったツケが、今やってきています。理科嫌いだの学力低下だのと いう話から「科学教室」などが無数にやられる時代になりました。それは それでいいことなのでしょうが、決して根本において世紀を生き抜く国づ くりがそれで可能とは思われません。倫理的な課題も含め、世界的・宇宙 的視座に立った、これまでとは目標とスケールを異にする仕組みを、草の 根から作り上げていかなければ、この国に高まりつつある「世界貢献ので きる国」という機運は仇花に終わるでしょう。

 2003年に設立されたJAXA(宇宙航空研究開発機構)に、純白の社会貢献 をめざす宇宙教育センターが設立されたのは、2005年のことでした。そこ で設立時に掲げられた日本の宇宙教育から世界に向けた理念の図式があり ます。宇宙を目指す人類の長い営みの中から抽出した「子どもたちの心に 育みたい三要素」として、好奇心・冒険心・匠の心を中心に置き、その基 盤に「いのちの大切さ」を据えた「いのちのトライアングル」と呼ぶもの です。

 このトライアングル自体は決して宇宙に限定されるものではなく、たと えばそこから、好奇心→宇宙科学、冒険心→有人飛行、匠の心→宇宙技術 のような派生があるのですが、逆にそうした宇宙活動の要素からも、宇宙 科学→好奇心、有人飛行→冒険心、宇宙技術→匠の心のような、子どもた ちを育む動機づけが豊かにもたらされるという意味において、極めて示唆 的なメッセージとなっています(図3)。


(図3)いのちのトライアングル

 「はやぶさ」によって宇宙のファンが増えたと喜んでいるうちは、まだ まだ現代における宇宙活動の役割を認識しているとは言えません。まして や、宇宙の後継者を獲得するために宇宙教育なるものをやるという意識で は、到底現代の課題に応える宇宙活動の戦略を策定できないでしょう。

 さまざまな文献によれば、人は人生において人間として最も変わるのが、 (平均値としては)10歳ごろであるといいます。小学校5年生ぐらいです ね。それは、「自分は世のため人のために一生を生きて行きたい」とか 「人を押しのけても自分は出世街道を歩みたい」とか「自分は大金持ちに なりたいなあ」とか、とにかく自分の人生をそれなりに輝かせるためのそ の後一生の基本となるものが心の中に顕在化してそれを見つめるのが、そ れくらいの年齢ということらしいですよ。ならば、宇宙教育のターゲット の重点を、その「長い人生で最も大切な年代」あるいはそこに向けて大切 な階段を昇っている小学生たちに向けていくというJAXA宇宙教育センター の戦略は当を得ていると言うことができます。

 その戦略が長く維持されることを願ってやみませんが、KU-MA(子ども ・宇宙・未来の会)は、この宇宙教育の理念を日本中のみなさんの力で津 々浦々に実践して行こうと、立ち上げたものです。その意味では、私は 「官」というものの危うさを、常に感じているからです。「宇宙の学校」 は、日本を根元から変革していく力強い流れになると信じています。

 着眼大局、着手小局━━怖れないで大胆に、日本の宇宙探査が世界に貢 献するという立場で戦略を練り、しかもその活動自体が翻って(宇宙活動 だけでなく)日本の未来に元気を与える普遍的な要素になれるよう、小さ なことも大切に組み立てて行きたいものです。

(YM)

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