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4月21日「桜前線そして科学衛星の命名ものがたり(3)」

 私の大好きな俳人の長谷川櫂さんが、大震災の日から怒濤のように短歌 を量産している。なぜ俳句ではなくて短歌なのかは、素人の私には測りか ねるが、次のようなものは、まことに私も共感した:

    人々の 嘆きみちみつる みちのくを 心して行け桜前線

 人間の世界の惨状にもめげずと言うべきか、あるいは慰め励まさんとし てか、列島の桜は例年のごとくに北上しつつある(図0)。以前に書いたこ とがあるが、桜前線が北上する平均スピードは秒速23.5 cmである。女に 人の足の大きさを1秒ごとに刻みながら、いままさに東北を通過する満開 の通り道の周辺いっぱいに、未来を築く日本中の決意のメッセージを届け たい。


(図0)今年の桜開花予想

 1980年代の初めごろ、衛星命名のキャスティングボートを握っていたの は野村民也であった。投票が終わると、得票数に応じた衛星名の候補がず らっと整理されて、数名の委員会で配られる。長老の先生方は「命名は多 数決ではない」と言う。やはりそれなりの見識をもって名前をつけないと 沽券に関わる。衆愚政治ではないのである。

ひのとり(火の鳥、HINOTORI)(旧名ASTRO-A)── 太陽観測

 ところが、1981年2月21日に打ち上げたこの衛星(図1)の命名は、事情 が違った。この衛星を打ち上げたのは、手塚治虫の長編コミック「ひのとり」 がベストセラー街道をひた走っていた(図2)。ついでに思い出せば、懐か しい「ルービックキューブ」が大流行に流行っていた。この時は実に実験 班員の80%が同じ名前を書いたのである。ちょうど衛星グループとロケッ ト・グループに手塚の大ファンが一人ずついた。衛星の方は天文台の田中 捷雄、ロケット・グループは私である。


(図1)衛星「ひのとり」


(図2)漫画「ひのとり」(手塚治虫)

 何しろこの衛星は太陽の観測衛星なのである。「ひのとり」という名前 をつけなければ、手塚ファンの名が泣く。2人で猛烈に票を組織した。そし て得票率80%!野村先生のぼやきが聞こえてきた──「ひのとり」なんて 派手すぎるなあ……。当時の基準からすると「ちょっときらびやかな」印 象だったらしいが、ついに数の力が勝って、衛星は「ひのとり」となった。 マスコミには好評だった。実は田中と的川は大学入学以来の友人である。 入学してすぐ同じクラスだった……。このあたり、コンビネーションの勝 利であった(図3)。


(図3)「ひのとり」がとらえた太陽フレアのX線等高線

  てんま(天馬、TENMA)(旧名ASTRO-B)──X線天文衛星2番機

 1984年2月半ば、「はくちょう」の次のX線天文衛星ASTRO-Bの打上げを 数日後に控え、私は内之浦のバー「ロケット」のカウンターでグラスを傾 けていた。ところが少々居心地が悪い。私の両側には、X線天文衛星の世 界のリーダーが2人、脅迫するように腰掛けている。小田稔と今回の衛星 主任の田中靖郎である。

 2人は衛星の愛称で迷っていた。そこでヒントとして星座の名前を私に 片っ端から言え、というわけである。X線を放つ星のある星座の名前をつ けたいという気持ちがあるらしい。「おおぐま」「こぐま」「カシオペア」 「アンドロメダ」……あまり系統的とは言い難い方法で私は列挙していっ た。ハッとするような名前が出てくると、3人でX線天文衛星に向いている かどうかを検討する。そしてまた次へ進む。

 「こと(琴)座」と言ったところで、星座音痴のお二人のために私はつ け加えた──

「この星座の主星はヴェガ、例の織姫星ですね。」田中が膝を打った。
「うん、いいな。こと座にはX線星も見つかってるし。どうですか、小田さん。」
「うん、いいね。これで行くか。」

かくて翌日、命名の責任者である野村民也と協議の末に決定。一応文部省 に報告の電話が野村から入れられた。ところがここから事態は意外な展開 を見せることになった。

 「おりひめ、ということにしようと思っています。」との野村の報告に、 電話に出た文部省のお役人は、「えっ、おりひめなんて何だか女工哀史を 思い出して暗い気分になりますなあ。」「それもそうですなあ。」

 急転直下、白紙に戻ってしまった。その晩、前夜と同じ光景がバー 「ロケット」で繰り広げられた。「おひつじ」「さんかく」「かに」 「オリオン」……。今度は「ペガサス」で止まった。的川のコメント── 「ペガサスはいわゆる天馬ですね。朝鮮では千里馬かな。」

 ここで小田と田中の合議で「てんま」という名前が誕生した(図4)。 ところが、直後にひと騒動あった。新聞発表した後で野村が、広辞苑で調 べてみたら「てんま」なんて言葉がない、と言い出したのである。あの羽 の生えた馬は「てんば」と読むのが本当らしい。その場の雰囲気をなだめ るように、「まあ、いいじゃないか。信州天馬峡ってのがあったから」と 小田が言ったが、実は小田は、折から発射場の内之浦に見学に来ていた作 家の三浦朱門に訊ねて「どちらでもいい」というお墨付きをもらっていた そうである。


(図4)衛星「てんま」

 また外国向けにはTenmaかTemmaかという秋葉鐐二郎対田中靖郎の論争が 起き、こちらの方はTenmaに決まった。

おおぞら(大空、OHZORA)(旧名EXOS-C)

 EXOSシリーズの3番機で、中層大気観測衛星である(図5)。科学主任の 伊藤富造(図6)が、得票数が最も多かった「おおぞら」を推したので、 全く問題なく決定。これまでの日本の衛星としては最も軌道傾斜角の高い 75度に投入された。

(図5)衛星「おおぞら」


(図6)「おおぞら」を指揮した故・伊藤富造(中央)

(YM)

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