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11月30日「「はやぶさ」の危機(4)絶体絶命のピンチ(その2)──ワンビット通信」

 さて、行方不明の「はやぶさ」という息子から、待ちに待った第一報が2006年1月23日に届いたものの、「もしもし」だけのような一発のパルスだけでは、風邪を引いていないかどうかすら分からない頼りない情報です。ここまでは先週話しましたね。

 ところが「はやぶさ」チームはここで小躍りしたのです。それは、かつて火星探査機「のぞみ」の時の経験をみんなが思い出していたからです。「のぞみ」にも同じような経過があったのですね。そしてその危機をかつて乗り越えられた苦労とテクニックと自信が、今回も猛烈な闘争精神を鼓舞してくれたわけです。

 それは「1bit(ワンビット)通信」です。1bitとは、1秒間に1ビットの情報しか来ないような状態を言います。つまり、1秒間に「イエス」または「ノー」という答えしか相手からは反応がないということです。こちらからは単純な問いかけしかできません。つまり、「あなたの温度は10度以上ですか?」とか。

 もう少し詳しく話すと──もし「はやぶさ」が23.7℃だったとしましょう。それを地上局では知らないわけです。だから、「0℃以上ですか」「10℃以上ですか」「20℃以上ですか」「30℃以上ですか」「40℃以上ですか」と立てつづけに訊いていきます。すると「はやぶさ」は、「イエス」「イエス」「イエス」「ノー」「ノー」と応じてくれるでしょう。これで20℃と30℃の間だということだけは分かりました。次に「20℃以上?」「21℃以上?」「22℃以上?」「23℃以上?」「24℃以上?」「25℃以上?」と訊き続けると、「イエス」「イエス」「イエス」「イエス」「ノー」「ノー」と帰って来るでしょう。ハハァ、23℃と24℃の間だな、というわけで、次は「23.0℃以上?」「23.1℃以上?」「23.2℃以上?」などと訊いていって、ついに「23.7℃」という温度を突き止めるわけです。

 でもこうして粘り強く1bit通信をやって、得られるデータは、たった一つの「温度」情報だけ。地球に帰還するためにイオンエンジンをどのタイミングでどのように噴くかを判断するために必要な情報は他にもいっぱいあります。それらの一つ一つを、気が遠くなるくらい時間のかかる1 bit通信で手にするまでには、本当に手続きは途轍もなくややこしいが、ある意味では単調で消耗感の大きい作業を乗り越えなくてはならなかったのです(図1)。この果てしない1 bit通信が不可欠になったために、当初2007年に予定された地球帰還は、2010年まで延期されました。


(図1)ワンビット通信をやりぬいた「はやぶさ」管制室

 博多でこの1bit通信の話をした時には、講演が終わった後の控室に、小学校3年生の男の子を連れたお母さんが訪ねて来られました。「宇宙では素晴らしいことをやっておられますね、ワンビット通信なんて」──私は一計を案じてお母さんに訊ねました。「いや、宇宙だけではありませんよ。たとえばそのお子さんは、学校から帰ったらお母さんに何でも報告しますか?」急に「お母さん」の顔になった彼女は「いいえ、駄目なんですよ。この子にはお姉ちゃんが一人いて、女の子っていいですよね。学校から帰ると、もうべらべらべらべら、私が訊かないうちにすべてしゃべってくれますから、楽ですねえ。その点、男の子っていうのは、本当にぶっきらぼうでねえ」「そうでしょ? だからお母さんが、“今日は宿題はあるの”って訊いたら」「そうなんです。“ウン”の一言だけ」「そうでしょ、そうでしょ。そして“国語?”って訊いたら」「(首を横に振りながら)“ウウウウン”」「“算数?”」「(首を縦に振りながら)“ウン、ウン”」「ほら、それがワンビットでしょ」お母さん、ハッとした顔に戻て、「あら、ホントだ」「だから、今日の宿題は算数の何ページから何ページまでということが分かって、お母さんが“さあ早く宿題やりなさい”という実際的なアクションを起こすまでに長ーいワンビット通信があるんですね」「それなら私、毎日やってます」というわけで、すっかり納して、嬉しそうに帰られました。最後に私は一言付け加えました。「男の子を持ったお母さんは、ほとんどの方がワンビット通信の巧みな使い手になるようですね。お母さんは宇宙開発の同志ですから、今後も一緒に頑張りましょうね」

 この果てしない1bit通信を制して、「はやぶさ」が必要な情報を確保し、イオンエンジンを噴かして地球帰還の途についたのは、翌2007年の春。発射以来4度目の桜前線が、日本を縦断し始めた頃でした。そして2007年、2008年、2009年、色々なことがこの間にもありましたが、ともかく乗り切って、2009年も押し迫って来ました。「地球の大気圏にたどり着くまであと半年ちょっとだねえ」ということで、「はやぶ」を迎える複雑なプロセスをみんなで検討していた2009年11月、大変な事態が起きました。それは次回。

(YM)

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