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8月10日「キュリオシティ」火星表面へ」

 アメリカ航空宇宙局の最新技術を結集した火星ローバー「キュリオシティ」が、ついに火星表面に着陸しました。この重さ約1トンの大型ローバーは、小型の乗用車くらいの大きさです(図1)。昨年4月にフロリダから打ち上げられて後、36週間の飛行を経て、さる8月5日、母機であるMSL(Mars Science Laboratory:火星科学実験船)から25フィートのロープに吊るされ、スカイクレーンという独特の方法を用いて、赤い火星表面に降ろされました(図2)。「キュリオシティ」は原子力電池を積んでおり、これから2年間にわたって、火星表面を動き回り、生命の痕跡を探ります。


(図1)「キュリオシティ」の概観


(図2)スカイクレーンによる着陸

 アメリカは2030年代半ばに、飛行士を火星に送る壮大な計画を持っています。今回の「キュリオシティ」の着陸成功は、その火星有人飛行計画につながる非常に重要なステップになるものと思われます。「キュリオシティ」が降り立ったのは、ゲイル・クレーターの中で、2年間のミッションで、この地域が微生物の生存に有利な環境にあったかどうかを徹底的に調査する予定です。

 この日、カリフォルニア州パサデナのジェット推進研究所(JPL)の管制室では、火星を周回中の「マーズ・オデッセイ」を介して、154マイルの彼方から13分50秒かかって届く赤い火星表面上空からの情報を、固唾を飲んで見守っていました。一つ一つの降下シーケンスのイベントがクリアされる度に拍手と歓声が湧き、着陸に成功した瞬間のジェット推進研究所(JPL)の管制室内の爆発的で感動的なシーンが、このミッションにかけたチームの並々ならぬ決意と緊張を語っています(図3)。


(図3)着陸直後のJPLの管制室

 いろいろとしゃべりたいことはありますが、JPLの連中が「恐怖の7分間」と呼んだ「キュリオシティ」の火星大気突入から火星表面への着陸までのドラマを、少し解説しておきましょう。図4を参照しながらその経過をたどることにしましょう。


(図4)「キュリオシティ」恐怖の7分間

 MSLは、惑星間クルーズ船と「キュリオシティ」ローバーから成っています。前者は、地球から火星への旅の間の電力や通信を提供してくれる部分ですね。後者は、火星大気突入の際の極端な高温から身を守るために、熱シールドやエアロシェルに被われています。

 火星大気に突入する直前、MSLの重心位置を調整するため、165ポンドのタングステンの重りを投げ捨てました。そして、毎分2回スピンしているMSLの回転を止めるスラスターを噴き、MSLは前面の熱シールドをゲイル・クレーターを狙うための正確な突入角度に制御し、高度78マイル、時速13200マイル赤い惑星の大気のただ中へ激走して行きました。

 突入して1分15秒後までに、MSLは大気圏内の減速の90%がのしかかります。この時点でピーク時の温度が華氏3800度! その10秒後にMSLは10G〜15Gを経験したはずです。ローバーのコンピューターが忙しく微妙な指令を発し、スラスターからの噴射を制御しつづけます。  「誘導突入」(guided entry)と名づけられたプログラムは、着陸までの4分間実行されました。減速パラシュートを開く際には、再び重心位置を調整するため、55ポンドの重りを6個分離しました。

 数秒後、高度7マイル、時速約900マイルで開傘、一気に直径70フィートに。激しい搖動は一挙に静かに落下する探査機と化しました。驚いたことに、この「キュリオシティ」の降下の様子を、現在火星を周回中の「マーズ・リコネイサンス・オービター」のカメラが撮影しています(図5)。


(図5)MROがとらえた「キュリオシティ」の降下

 24秒後、前部の熱シールドが放たれます。その時点の高度は約5マイル、時速280マイル。ローバーの着陸装置が表に出ました。レーダー高度計が高度と速度を測定しては、ローバーのコンピューターに送り続けます。ハイビジョンカメラが着陸の記録をめまぐるしく撮ります。

 突入して6分。高度わずか1マイル、速度は時速約180マイル。ローバーとロケットパックが、パラシュートと後部熱シールドから切り離されます。直後、降下ステージ下部の四隅に2機ずつ装備した8機のヒドラジン・スラスターが噴きます。これにより速度は時速2マイル以下に。

 タッチダウンの16秒前、高さ70フィート弱。「キュリオシティ」は25フィートの長さの3本のロープに吊り下げられながら降下して行きます。6輪のローバーは時速1.7マイルで火星表面に静かに降り立ちました。突入からの「恐怖の7分」は終わったのです。6輪の重さを感じた瞬間、コンピューターが指令を発し、逆噴射をしているスラスターとローバーをつなぐケーブルを切断して、ここまでローバーを運んできた降下ステージは安全な距離まで飛ばしました。

「キュリオシティ」の歴史的な着地は完璧であることが、すぐに確認されました。

 着陸直後の「キュリオシティ」の機器はすべて順調に作動しており、ローバーの前方にひろがる火星の荒涼とした光景の画像を次々と送って来ています(図6)。「キュリオシティ」に搭載されている10個の科学観測機器は、これまで火星表面で大活躍してきた「スピリット」や「オポチュニティ」の15倍の重さに達します。


(図6)「キュリオシティ」から送って来た火星表面の画像

 離れた場所からレーザーを発射して岩石の成分を調べる機器など、これまでになかった新しい調査も試みられるし、掘削してロボットアームの先端に取り付けたスコップで、火星表面の土壌や岩石内部のサンプルを採取し、それをローバー内部の分析装置で調べたりします。

 これまでの火星オービターの観測によって、今回「キュリオシティ」が降りたゲイル・クレーターは、かつて水が存在したに違いない証拠が見つかっています。これからどんな報告が寄せられるか、大変楽しみな「キュリオシティ」の活躍が始まりましたね。

(YM)

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